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1月7日

雪がすっかりこおって大理石よりもかたくなり、
空も冷たいなめらかな青い石の板で出来ているらしいのです。
堅雪かたゆきかんこ、しみ雪しんこ。」
 お日様がまっ白に燃えて百合ゆりにおいきちらし
また雪をぎらぎら照らしました。
 木なんかみんなザラメをけたようにしもでぴかぴかしています。
「堅雪かんこ、み雪しんこ。」
 四郎とかん子とは小さな雪沓ゆきぐつをはいて
キックキックキック、野原に出ました。
 こんな面白おもしろい日が、またとあるでしょうか。
いつもは歩けないきびの畑の中でも、
すすきで一杯いっぱいだった野原の上でも、
すきな方へどこまででも行けるのです。
平らなことはまるで一枚の板です。
そしてそれが沢山たくさんの小さな小さな鏡のように
キラキラキラキラ光るのです。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。」
 二人は森の近くまで来ました。
大きなかしわの木はえだうずまるくらい
立派なきとおった氷柱つららを下げて
重そうに身体からだを曲げてりました。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ。狐の子ぁ、よめいほしい、ほしい。」
と二人は森へ向いて高くさけびました。

( 中略 )

きつね可笑おかしそうに口を曲げて、
キックキックトントンキックキックトントンと足ぶみをはじめて
しっぽと頭を振ってしばらく考えていましたがやっと思いついたらしく、
両手を振って調子をとりながら歌いはじめました。

み雪しんこ、堅雪かんこ、
   野原のまんじゅうはポッポッポ。
 酔ってひょろひょろ太右衛門が、
   去年、三十八、たべた。
 凍み雪しんこ、堅雪かんこ、
   野原のおそばはホッホッホ。
 酔ってひょろひょろ清作が、
   去年十三ばいたべた。」

 四郎もかん子もすっかりまれて
もう狐と一緒いっしょおどっています。
 キック、キック、トントン。キック、キック、トントン。
キック、キック、キック、キック、トントントン。
 四郎が歌いました。
「狐こんこん狐の子、去年狐のこん兵衛が、ひだりの足をわなに入れ、
こんこんばたばたこんこんこん。」
 かん子が歌いました。
「狐こんこん狐の子、去年狐のこん助が、焼いた魚を取ろとして
おしりに火がつききゃんきゃんきゃん。」
 キック、キック、トントン。キック、キック、トントン。
キック、キック、キック、キックトントントン。
 そして三人は踊りながらだんだん林の中にはいって行きました。
赤い封蝋ふうろう細工のほおの木の芽が、
風にかれてピッカリピッカリと光り、
林の中の雪には藍色あいいろの木のかげ
いちめんあみになって落ちて
日光のあたる所には銀の百合ゆりが咲いたように見えました。

( 後略 )


雪 渡 り           宮沢 賢治


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デージー(雛菊;ヒナギク)

キク科ヒナギク属
原産地 ヨーロッパ地中海沿岸
花期間 11月〜5月
別名 延命菊(エンメイギク)
関東以西の平地では冬から春にかけて長い間咲き続けますが、寒さが厳しいところでは春の花になります。ヨーロッパの野生のデージーを改良して園芸種がつくられ、日本には明治の初め頃に渡来しました。赤・白・ピンクの3cmくらいの花(大輪もある)が、寒い風に負けず可愛いく咲きます。


  空の上にもひとりわれがいつもゐて
  野に来れば野の空あゆみゐる

                   石川信夫

JR舞子駅前の舞子公園にて(1月5日)

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